万年地獄堂

いつも最低 いつも最低最高最低

青椒肉絲の作り方っ🎶

ずっと昔に夢をみたのを覚えている。私は浜辺へ誰かに逢いに行く。誰なのかは分からない。ぼんやりしていて、まるで幽霊みたいだったから。

 

私はずっと君が好きだった。背が高く、小さな顔に整ったパーツを適正な位置に搭載し、白い肌には純血を通わせ、長い睫毛は今にも私を突き刺してしまいそうだ。そして何よりも、つかみどころのないところが私を強く惹き付けていた。

君はいつも誰とも関わらなかった。いや、関わろうとしなかった。美しい君にクラスの皆は最初こそ関わろうとこぞって君に話しかけたが、君はそれを軽やかにいなし、相手にしなかった。3ヶ月も経てば君という存在は次第に薄れていった。

私はといえばそれはそれは醜いアヒルの子だった。背は低く、顔は思春期特有の肌荒れでボロボロ、日焼けで肌は褐色に染まり、そして何よりも、度数の高い眼鏡は私の顔を歪ませているのだった。私達は「クラスの中でひとりぼっち」という点で共通していたが、見た目という点では月とすっぽんだった。だからこそ私は君が好きだったんだ。私達にまとわりつく肉は全く違えども、骨の色は全く同じだと思っていたから。

ある日の夕暮れ、学校帰りにふと思い出すように海へ行った。すると浜辺に君が居るのをみた。驚いた。これは運命なのか、と思わずにはいられなかった。君を知りたい、君に触れたい。想いは私の体を支配し、気づけば口を開かせていた。君も驚いていた。初めてみる表情だった。クラスでは見せたことの無い君の表情。私は感極まって泣いてしまった。

それからしばらく私達は浜辺で話をした。くだらない、中身のない話だ。けれどもそれで幸せだった。オレンジ色の海が、次第に闇へと変わっていく。月明かりだけが君の表情を教えてくれる。「そろそろ帰ろうか」と君は言う。

 

 

私は君の手を握ろうとした。握れなかった。いや────握れない、というのは精神的なものじゃあない。肉体的に、だ。つまり、その────君は幽霊だった。つかみどころのない、ではなくつかめないのだった。

君はつかみどころのないやつだった。私は、そんな君がずっと好きだったんだ。